アレクサンドル・グラズノフ(1856-1936):
1.吟遊詩人の歌 Op.71
2.スペインのセレナード Op.20 No.2
3.メロディ Op.20 No.1
4.アラブのメロディ Op.4 No.5
5.歌詞のないロマンス
6.悲歌 変ニ短調 Op.17
7-10. イワン・ソコロフ(1960-)/チェロ・ソナタ(2002)
フョードル・アモーソフ(チェロ)、スン・ジェンル(ピアノ)
録音:2009年9月、アメリカ、ミシガン州、ランシング
ブルー・グリフィン・スタジオ、「ザ・ボールルーム」
Bel Air Music【モナコ輸入盤】
グラズノフ(1865-1936)は、ロシアの国民楽派の作曲家。バラキレフやボロディン、リムスキー=コルサコフらの民族色の濃い壮大な音楽と、ルビンシテインやチャイコフスキーなどの洗練された西欧的な管弦楽法を融合し、たくさんの優れた作品を残しました。また、ペテルブルク音楽院の院長を長らく務め、多くの優れた生徒を輩出するなどロシア音楽の重鎮として尊敬を集めました。グラズノフといえば、バレエ「ライモンダ」や「四季」が今なおロシア・バレエの傑作としてよく知られていますが、弦楽四重奏やチェロ作品など室内楽曲のジャンルにも情熱を傾けていました。比較的演奏機会に恵まれている「吟遊詩人の歌」や「悲歌」などを除けば、なかなか耳にできないたいへん珍しい作品ばかりで、グラズノフ・ファンやチェロ・ファンにとって興味深い内容となっています。オーケストラ伴奏で演奏されることもある「吟遊詩人の歌」や「スペインのセレナード」、「メロディ」、「歌詞のないロマンス」も、ピアノ伴奏により一段とチェロの逞しい音色と美しいメロディーが引き立ち、グラズノフがいかに優れたメロディー・メーカーであったかよく分かります。また、「5つの歌曲」の第5曲である「アラブのメロディ」をグラズノフ自身がチェロとピアノのための編曲したものなど、ロシアの作曲家でありながらグラズノフが東洋的な世界(オリエンタリズム)へ傾倒していたかもうかがい知ることができます。
また、併録されているロシアの現代作曲家イワン・ソコロフ(1960-)の「チェロ・ソナタ」も、最近の現代作品らしくロマン派への回帰を思わせる耳に心地よい作品。ところどころに現代音楽的な凝った書法を潜ませつつも、楽章が進むごとにどんどん明るく開放的になっていきます。第3楽章のスケルツォは、ミニマル音楽やゲーム音楽を思わせるほどポップで、斬新かつユニークです。チェロのアモーソフも柔らかな音色としなやかなフレージングを用いて、悠々とメロディーを歌っており、ロマンチックで心地よい演奏をしています。中でも「吟遊詩人の歌」や「悲歌」はとてもロマンチックな美演なので、女性にもぜひ気軽にお聞きいただいたいアルバムです。