1-3. スクリャービン／交響曲第３番「神聖な詩」
4. ブゾーニ／悲歌的子守歌
5. ラヴェル／海原の小舟
6. ストラヴィンスキー／ロシア風スケルツォ
ミヒャエル・ギーレン（指揮）／南西ドイツ放送交響楽団
録音：1975年5月（1-3）、1995年2月(4)、1997年1月(5)、1998年4月(6)
HANSSLER【ドイツ輸入盤】
ミヒャエル・ギーレン（1927-）は、ドイツの指揮者で作曲家でもあり、現代音楽を得意としています。「冷血指揮者」などと呼ばれるほどドライでユニークな音楽作りで熱狂的ファンを得ていましたが、1986年に南西ドイツ放送交響楽団の首席指揮者となって以来、音楽の成熟度が増し、巨匠としての風格も出てきたといわれています。特に近年はマーラーやブルックナーなど交響曲を精妙で色彩豊かなアンサンブルで聴かせることで定評があります。このアルバムではスクリャービンの「神聖な詩」のみが1975年の録音で、ギーレンが尖っていた時代のユニークなアプローチが聞きものになっています。ロシア的な重厚さ土臭さ、スクリャービンらしい神秘性やロマン性はほとんど感じられず、一般的な演奏とはかなり趣が異なります。各声部はスッキリ整えられ、旋律やハーモニーはほとんど粘らず、鋭い音でエネルギッシュに迫ってきます。まるでスクリャービンのゴテゴテした油絵を、鋭い線で描いた黒一色のエッチング版画に変貌させたかのよう。
しかし1995年以降に録音された他の作品は、以前として透明度は高いものの、柔らかな色彩感も加わって、より取っつきやすい美しい演奏になってします。ブゾーニの「悲歌的子守歌」は珍しい作品ですが、アンニュイな音色の変化が見事にとらえられており、後半のヴァイオリン・ソロはロマンチックでとても印象的です。ラヴェルの「海原の小舟」もギーレンらしい冷たく透明な響きがとても新鮮で、各楽器の繊細な動きが浮き出てきます。クリスタルな美しいラヴェルです。ストラヴィンスキーの「ロシア風スケルツォ」は圧倒的な名演奏。愉しいリズムと音のうねりが聴き手の心をわしづかみにします。
