アンリ・ヴュータン(1820-1881)：
1. ファンタジア・アパッショナータ Op.35
2. バラードとポロネーズ Op.38
3-5. ３つの無言歌 Op.7（愛の歌／絶望／思い出）
6. ３つのサロン風小品 Op.32より 第２番「ロンディーノ」
7-8. ６つのサロン風小品 Op.22より 第４番「タランテラ」、第３番「瞑想」
9. アルバムの綴り Op.40より 第１番「ロマンス」
10. パガニーニへのオマージュ Op.9
11. ４つの無言歌 Op.8より 第２番「イノセンス」
12. アメリカの思い出 「ヤンキー・ドゥードゥル」 Op.17
ルッジェーロ・リッチ（ヴァイオリン）、マルコ・ヴィンセンツィ（ピアノ）
録音：1995年5月
DYNAMIC【イタリア輸入盤】
ルッジェーロ・リッチ(1918-2012)はアメリカを代表する名ヴァイオリニスト。天才少年としてわずか10歳でデビューして以来、現在にいたるまでの長い経歴と莫大なレパートリーとレコーディングを誇り、ヨーロッパの伝統的な巨匠様式を今日に受け継ぐヴァイオリニストです。とりわけ華麗な演奏技巧と美しい音色、独特な楽器の歌わせ方が特徴的で、パガニーニやサラサーテなどの演奏に関しては抜群の人気を誇っています。このアルバムは、意外なほど録音の少ないヴュータンのヴァイオリン作品集。1995年の録音当時は77歳という高齢ながら、現役としてまだまだ活躍していた晩年のリッチの至芸を大いに堪能することができます。
アンリ・ヴュータン(1820-1881)は、主にフランスで活躍したベルギー人のヴァイオリニストで、かのパガニーニに比肩するほどの超絶技巧の持ち主として人気を博しました。ヴュータンは名ピアニストのタールベルクと共にヨーロッパ各地やアメリカに演奏旅行を行い、世界的な名声を獲得しました。また、ブリュッセル音楽院のヴァイオリン科の教授としても活躍し、イザイ、デュボア、グリュミオーと続くフランコ・ベルギー楽派の隆盛の基盤を作り上げました。作曲家としても有能で、若い頃にアントニーン・レイハ（ライヒャ）に作曲を師事し、７つのヴァイオリン協奏曲をはじめ弦楽器のための作品を数多く残しています。
若き日からヴィルトォーゾとして活躍してきたリッチが事あることに弾き続けてきたヴュータンの作品集は、一見ロマンチックでサロン的な音楽ながら超絶技巧を盛り込んだ難曲ばかり。しかし、リッチは嬉々として愉しげに演奏しており、技巧があまり衰えていないどころか、音楽に対して若々しいひたむきさと新鮮な感興を保ち続けていることに驚かされます。ちょっとやんちゃな演奏をすることもあるリッチらしく、少し弾き崩したような部分があるものの、どの曲も溌剌とした演奏であり、芸術家ぶらずエンターテイナーとしての魅力を保ち続けたリッチの至芸そのものです。特に 「ヤンキー・ドゥードゥル」の鮮やかさと面白さに吃驚！
