CD1:
1〜3.シューベルト(1797-1828)/即興曲集 D.899より 第2,3,4曲
4〜7.ベートーヴェン(1770-1827)/ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3
8.ベルク(1885-1935)/ピアノ・ソナタ Op.1
9.プロコフィエフ(1891-1953)/トッカータ ハ長調 Op.11
10〜13.ショパン(1810-1849)/前奏曲集 Op.28より 第21-24番
14〜17.ショパン/4つのマズルカ Op.33
18.ショパン/ポロネーズ第6番 変イ長調 Op.53「英雄」
19.ショパン/幻想即興曲 嬰ハ短調 Op.66
CD2:
1〜4.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第1番 ヘ長調 Op.2 No.1
5〜6.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op.111
7〜8.ブラームス(1833-1897)/パガニーニの主題による変奏曲 Op.35
9.メンデルスゾーン(1809-1847)/スケルツォ ロ短調
ジェイコブ・ラテイナー(ピアノ)
録音:1964年3月1日、ニューヨーク(CD1,モノラル)
1977年1月11日、ニューヨーク、ジュリアード音楽学校(CD2,ステレオ)
PARNASSUS【アメリカ輸入盤】
オリジナル・アルバム・タイトルの直訳は「ジェイコブ・ラテイナーの失われた芸術」。ジェイコブ・ラテイナー(1928-2010)は、ポーランド人を両親にキューバのハバナに生まれたピアニスト。10歳にしてエルネスト・レクオーナ指揮ハバナ・フィルハーモニー管弦楽団との共演でベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番を弾いてデビューしたという神童でした。その2年後、一家はアメリカ合衆国に移住し、ジェイコブは弟イジドア(1930-2005;ヴァイオリニスト)とともにカーティス音楽学校に入学、イザベラ・ヴェンゲーロヴァに師事しました。さらに16歳にしてユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団との共演で、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を弾いてアメリカ・デビューを果たしました。1960年代にはヤッシャ・ハイフェッツ、ウィリアム・プリムローズ、グレゴール・ピアティゴルスキーという巨匠たちの室内楽コンサート・シリーズにも参加、その後1990年代までコンサート・ピアニストとして活躍しましたが、1967年を最後に商業用録音を行わなかったため、2010年の逝去時には忘れられたピアニストとなっていました。
そのラテイナーの珍しい音源を集めたこのアルバムは、選曲も幅広く、彼の芸風を知るに格好の内容です。ラテン系ピアニストということもあるのか、ヴィルトォーゾ的な熱狂とロマンチックな歌が最大の特徴です。中でもプロコフィエフの「トッカータ」がヴィルトーゾぶりを発揮した怒濤の演奏で、ブラームスの「パガニーニ変奏曲」やショパンの「英雄ポロネーズ」もパワフルに盛り上げて面白く聴かせます。両親がポーランド人という血統のせいか、ショパンには格別な思い入れがあるようで、「4つのマズルカ」や「英雄ポロネーズ」、「幻想即興曲」など多少のミスタッチもものともせず、血湧き肉躍る情熱的な演奏を繰り広げています。メロディーを浮き上がらせてよく歌うので、シューベルトの「即興曲」の流暢さには舌を巻くほど。ベルクの「ピアノ・ソナタ」でさえ、何だか不思議な響きだけれど時にはこんな音楽も面白いでしょう、といわんばかりの分かり易い演奏です。3曲もあるベートーヴェンのソナタも同様で、所謂ドイツ的な頭でっかちの堅苦しさがありません。緩徐楽章では上品に歌い、フォルテでは情熱的に盛り上がり、聴衆へのアピールもさぞ上手かったことでしょう。
当盤に収録の音源については詳細未詳ですが、これが初CD化であるとのことです。音質については、CD1は保存状態の悪いテープだったのか音ムラやノイズ、聴衆の声なども多く、気になることもしばしばですが、ピアノ自体の音は良好です。CD2についてはかなり良好なステレオ録音です。このCDがジェイコブ・ラテイナー再評価のきっかけになるかもしれません。